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珍事件手記 第5話 誤解

誤解珍事件

いつものように私のデスクの電話が、けたたましく鳴り響いた。

私は、まだ入社してあまり長くはなく、単身にて調査現場を任されてはいなかった。

しかし、この電話で始めての単身調査を任されることとなった。

依頼内容は、「ある暴力団事務所の組長が浮気をしている証拠写真の撮影」である。

始めての単身調査にしては、物騒な仕事だと思ったが、「これが出来たら大きな自信がつく」と促され、有頂天で現場に向かった。

その暴力団事務所は、頑丈な鉄の扉で閉ざされ、窓にも鉄の鎧戸が施されている。

そして、四方八方が監視できるように、いたる所に監視カメラが設置されているような「要塞」と称してもおかしくない建物であった。

当然、付近で車輛にて張り込みをしていると、すぐさま組員が飛び出して来、「目障りだからあっちへ行け」と追いたてられる。

何処かに良い張り込み場所が無いか探した所、組事務所前に廃墟ビルがある。

私は、その屋上にて張り込みを開始することにした。

二時間程が経過した頃、不意に後ろから肩を叩かれた。

私は、びっくりして振り向くと、人相が悪い如何にも極悪人と思われる屈強な男性4人に囲まれているではないか。

私は、一目散にその場から逃げようと、一人の男を突き飛ばして走り出した。

しかし、後ろから腰を羽交い締めにされ、倒されてしまった。

「どうせ殺されるのなら、とことん暴れまわってやる」と思い、まず私の髪の毛を掴んでいる男の顔を、思いっきり正面から殴ってやった。

「おとなしくしろ。」

私を羽交い締めにしている男が叫んだが、黙って殺されてなるものか。

今度は、その男の小指を嫌というほど、捻じ曲げてやった。

男は痛さに絶えきれず、私の腰に回している腕を解いた。

すかさず、私は立ち上がり、横の男の股間を蹴り上げてやったが、もう一人の男に後ろから片腕を取られ、ねじ上げられてしまった。

余った一方の腕で、私の腕をねじ上げている男の股間を引っつかんで、思いっきり力を込めた。

ところが、私は、よってたかってボコボコにされてしまった。

「もうこれまでか、残念」と思った時である。

その中の一人が、私の右腕を掴んだかと思うと、手首に冷たい感触が伝わり、

・・・・・・  ジャリッ  ・・・・・・

という音がした。

私の手首を見ると、手錠が掛かっているではないか???

「手間掛けさせやがって、署でゆっくり話を聞こうか。」

私は、覆面パトカーに乗せられ、警察署に連行され、散々しぼられた。

警察であると告知する暇もなく、私が殴りかかったから、私が悪いと言うのである。

「どうして私服警官が来たのか」と質問したところ、少し前に郵便強盗事件が発生し、非常体制を執っていたところ、「おかしな人物が廃墟ビルの屋上に居る」との通報を受け、強盗犯人が私の風体にそっくりであったらしい。