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珍事件手記 第21話 調査目的

調査目的

いつものように、私のデスクの電話がけたたましく鳴り響いた。

今回の依頼者は、中年男性からである。

「私は、会社を経営しており、ライバル会社が盗聴している可能性が考えられるので、自宅と車輌の盗聴発見をお願いしたい。」

との依頼である。

私は、会社の盗聴発見は行なわなくても良いのかと問質したところ、会社は外部の人物が出入できないので、行なわなくても良いとの事である。

しかし、社内に侵入しなくても、外部から盗聴機器を設置することも出来ることを説明したが、会社の調査は構わないとの事であった。

そして、妻には心配を掛けさせないように、妻が外出中に行なって欲しいとの内容である。

我々は、依頼者の指示通り、自宅と車輌の盗聴発見を行なう為に、依頼者宅に赴いた。

その家は、4階建ての立派な邸宅で、駐車場には高級外車が数台駐車されている。

早速、室内の盗聴発見から開始しようとしたが、室内音声の盗聴は行なわなくても良いので、電話と車輌を重点に行なって欲しいとの事である。

我々は、3回線ある電話の電信柱からヒューズボックス、分岐盤、電話機、電話線、ローゼットなどを調べたが、盗聴器の設置は認められなかった。

しかし、ローゼット内の配線に、切断痕が確認され、テーピングされている。

これは、盗聴器が仕掛けられていた跡に間違いない。

依頼者に、その事を報告したが、驚く様子もなく「やはり」と云う態度であった。

そして、数台の車輌を調べたところ、総ての車輌に、現在位置がFAXで入手できる発信機が設置されていた。

依頼者に報告し、設置者の割出しは行なわなくても良いのか問質したところ、設置者の見当は有るので、総てを撤去して欲しいとの事であった。

総ての盗聴器を撤去して、我々は次の別件現場に向かった。

しかし、ライバル会社が盗聴している可能性があるという依頼者の理由は疑問である。

自宅室内のローゼット内に盗聴器の設置痕があったという事は、室内に侵入してドライバーでビスを外し、電話線を引っ張り出し、切断して、盗聴器を設置しなければならない。

当然、数秒間で設置できる筈はなく、慣れた人間でも数分は必要で、家人がトイレに入っている間に設置する等と云う事はできない。

しかも、電話線に流れている電流を利用して発信するタイプが設置されていた筈で、大抵は電池交換が必要ない、このようなタイプを設置した場合は、半永久的に発信するので、取り外す時の危険性を考えると、設置したままにしている可能性が高いが、その危険を冒してまでも取り外している。

犯人は外部の人間ではないかも・・・

その答えは、次の別件調査現場で判明した。

我々は、盗聴発見を終了して、予てから着手している浮気調査現場に赴いた。

被調査者の男性は車輌に女性を同乗してファッションホテルに入店した。

そのホテルの駐車場にて張込を行なっていたところ、先程盗聴発見を行なった依頼者の車輌が同ホテル駐車場に現われたではないか。

車輌から、先程の依頼者と、若い女性が下車し、手を繋いでホテルの一室に入った。

盗聴発見を依頼した中年男性は、浮気をしていたのである。

電話の盗聴器と車輌に設置された位置情報システムは、浮気を察知した奥さんが設置したのであろう。