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珍事件手記 第22話 潜入調査

潜入調査珍事件

いつものように、私のデスクの電話がけたたましく鳴り響いた。

今回の依頼は、大手製薬会社からの依頼である。

その製薬会社からの依頼は、新薬を開発して世に出す直前にライバル会社に一歩先を越されることが多々あり、誰かが情報を漏らしているかスパイが在籍している可能性があるので調べて欲しいとの内容であった。

調査期限は、新規新薬の発表予定である半年後となり、当社に勤務している調査員に、製薬会社の研究室勤務の経験がある人物がおり、その調査員を依頼者の製薬会社社員として潜入させる事とした。

調査員は、潜入入社後、毎日誰よりも朝早くに出勤し、社内の清掃をする傍ら、情報を入手する事に務めた。

また、就業時間後も最後まで残り、社内の清掃をし、総てのゴミ箱内や社員の引出し内を調べることに専念した。

そして、社員に不審がられないようにと製薬の知識や営業の知識と技術を磨き、社員の鑑として見られるように務めた。

時には、嫌がらせをする先輩社員や、折り合いが合わない同僚も居たが、誰とでも気さくに接しられるように調査員は心掛けた。

「私は、使命を帯びた人物で、他の社員とは違う」と云う意識が、調査員の心に芽生え、調査に関しても、製薬会社の一社員としても、一切の愚痴も漏らさず、どのような試練も乗り越えられるようになった。

潜入後、3ヶ月が経った時である。

社内の電話に設置していた盗聴器の録音内容に、ライバル会社の人物と思われる女性と、潜入先の会社男性社員が新薬に関する情報をやり取りしている内容が録音された。

早速、内容を依頼者の社長に報告したが、声だけではどの社員か判断できないので、引き続き、調査を続行し、声の主が誰かを特定して欲しいと言う。

調査員は、今まで以上に勤務社員との気さくな接触に努めた。

毎晩の如く、社員一人ずつと居酒屋や炉端焼きに赴き、録音された声の主探しと、情報入手に心掛けた。

当然、潜入調査員は社内で人気者となり、誰もが慕う存在となった。

潜入後4ヶ月目の事である。

勤務社員の男性から「内緒で彼女を紹介するから今晩一緒に付いて来ないか」と持ち掛けられた。

潜入調査員は、その男性にショットバーへ連れて行かれた。

同バー内に若い女性が二名待っており、先輩社員はその内一人の女性と恋人同士であるらしい。

調査員は、もう一人の女性を紹介され、4名にて近くのレストランへ入店した。

そのレストランは、一般のサラリーマンが入店できるような店ではなく、有名芸能人ご用達の超高級レストランである。

食後、同レストランの支払は、勤務社員の恋人である女性が支払った。

「先輩、良いのですか?こんな高額な食事代を女性に支払って貰っても・・・」

「大丈夫、彼女達はライバル会社の社員で、接待費で会社から落ちるから・・・君にも、これから僕の仕事を手伝って貰おうと思っている・・・今から彼女達がもっと良い所へ連れて行ってくれるぞ。」

調査員は体裁を繕い、その場を離れた。

翌日、依頼者の社長に一部始終を報告した。

すると、もう一つお願いがあるのだが・・・と持ち掛けられた。

「潜入してくれた調査員の事だが、仕事も出来て社員の皆からも慕われ、このまま辞めてもらっては困る、是非とも役員として当社に来て欲しい・・・」