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珍事件手記 第24話 迷調査員

迷調査員

当養成所を卒業して、優秀な成績を修め、正調査員として招き入れた23歳の男性が当社に勤務していた。

この男性は、調査歴2年の経験を持ち、これからの活躍を期待される立場にあった。

調査員は、単身にて深夜から早朝にかけて、繁華街のラウンジに出入する人物調査を3日間調査していた。

調査4日目の出来事である。その日はいつもより寒さが身に凍み、小雪がちらつく夜であった。

対象のラウンジは、午前4時に閉店する筈であるが、午前6時になっても会社に連絡が入らないので、ポケットベルを何度も打ったが、返信がない。(当時は携帯電話は普及されていなかった)

調査員の身に危機が?と思い、我々は一目散で現場に向かった。

現場には、会社から貸し出していたバイクが止まっていたが、調査員の姿が見えない。

対象のラウンジは当然の如く閉店し、シャッターが降ろされていた。

店内の様子を伺ったが、店内には誰も居ない様子である。

我々は調査員の自宅へ急行した。

調査員は、アパートの一室を間借りしており、同室のドアは鍵がかかっており、戻っては居ない様子である。

次に、管轄の警察署へ急行し、管轄区域にて交通事故や身元不明の人物が収容されていないかを聞いたが、該当はなかった。

その日、社内命令が下った。

「受件中の依頼は後回しで、全員が調査員の確保に全力で尽くせ」

調査員の捜索に社員全員が仕事を放って探索したが、手掛りは全く掴めない。

夜になり、行方不明の調査員が張込んでいた場所で、聞込みを行なったところ、付近のキャバレー店呼込みの人物から下記の如く情報が得られた。

「深夜の3時位まで、自動販売機の横で座り込んでいる若い兄ちゃんが居たが、4時位にはもう居なかったよ。」

その時間に、付近で喧嘩や大声を出している人物も居なかったようである。

被調査店の人物が拉致した可能性も考えられる為、同店の店長にも聞込みを行なったが、全く心当たりが無いとの事で、嘘を付いている様子も無い。

我々は、その後3日間を費やし、捜索したが、一向に行方は掴めなかった。

私は、行方不明の調査員の実家へ向かう事とした。

新幹線の車中で、ご両親への謝罪の言葉を考えた。

調査員の実家玄関に入り、私は言葉をなくした。

行方不明の筈である調査員が、そこに居るではないか!

「御免なさい、張込みをしていたら雪が降って来て、その雪を見ていたら無性に実家へ戻りたくなってしまったもので・・・」