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珍事件手記 第26話 不審物

不審物珍事件

探偵の仕事をしていると、逆恨みを受ける事もあります。

調査報告書は裁判になった時でも証拠資料として提出できるように、会社名や担当者名も明記されております。

浮気調査などでは、完了後にその調査報告書を突き付けられ、慰謝料を請求された上に離婚され、浮気相手にも愛想をつかされ、自分が行なった悪行を棚上げにして調査した探偵に怒鳴り込んでくる人物もおります。

調査現場での変装は付近の状況に溶け込む為の変装ですので、サングラスをしたり帽子を被ったりすると目立ってしまいますので、素顔を曝け出して尾行や張込みを致します。

しかし、私生活で外出する時には、逆に顔が判らないように変装する事もあります。

特に、帰路へつく時には尾行されて自宅を割出されないように細心の注意が必要です。

逆恨みをするような人物は、本人に直接交渉するのではなく、探偵の自宅を割出して女子供である家族に仕返しをしようとするからです。

この逆恨みに関する私の経験をご紹介致しましょう。

蒸し暑い真夏の昼間に、この事件は起こった。

私は調査現場に出動し、ある男性を尾行していた。

この男性は、会社の商品を流用販売し、私欲を肥やしている可能性があるので、その証拠を得る為に数日前から調査をしていたが、今日は車輌にその商品を積んで、高速道路を走行している。

「今日こそは証拠が掴める」と、意気揚揚と尾行していたが、先程から私のポケットベルが引っ切り無しに鳴っている。

発信先を見ると、私の自宅からの発信であった。

当時は、携帯電話等と云う文明の力は無く、高速道路で尾行中であれば連絡のしようが無い。

「この調査は、今日を逃しては長引く」と思い、自宅への連絡は後回しとする事にし、尾行に専念した。

暫くして、被調査者はパーキングエリアに入り、昼食を摂り始めた。

私のポケットベルは、尚も鳴り続いている。

私は、目の前の公衆電話から自宅に電話を入れた。

「大変!大変!爆弾を窓から放り込まれた。」

電話の向こうから、取り乱した女房の声が聞こえた。

「怪我は無いか?」

「まだ爆発はしていない。」

「警察には連絡したか?」

「連絡して近くの公園で、今待っている。」

女房の話しを要約すると以下の如くである。

自宅のチャイムが鳴ったので、覗き窓から相手を見ると、サングラスに帽子を被った男が立っており、胡散臭いので、居留守を使った。

すると、自宅の裏に回り込み、開いている窓から紙袋を家に放り込んで立ち去った。

その紙袋を覗き込んだところ、弁当箱位の黒い鉄の箱が入っているのが見えた。

私は、大急ぎで自宅に戻った。

自宅の周辺は大騒ぎである。

パトカー、消防車、救急車、装甲車まで出動している。

付近は避難体制がとられ、住人は公園へと避難誘導されている。

暫く付近で見ていると、私の自宅から液体酸素の容器に入れられた紙袋が持ち出され、装甲車に積まれて行った。

1時間程度が過ぎ、私と女房は自宅で警察官と話をしている時に、爆弾処理班が部屋に入ってきた。

「あれは・・・爆弾ではないですよ。」

私は、前日に同僚へ頼んだ内容を思い出した。

「明日は現場解除が遅くなるから、明後日の早朝に取り付ける発信機と、自動無人録音機を自宅へ届けておいてくれ・・・」