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珍事件手記 第28話 位置情報

位置情報珍事件

NTTドコモのPHSを利用した「いまどこサービス」や、セコムのGPSを利用した「ココセコム」などは、一般の人でも簡単に契約でき、調べたい相手の車輌に設置すれば、パソコンでインターネットに接続して現在位置を正確に把握する事ができる。

いつものように、私のデスクの電話が、けたたましく鳴り響いた。

今回の依頼は、この位置情報システムを自分で契約し、夫の浮気を証明しようとした妻からの依頼である。

依頼者の夫は、運送会社の社長であり、頻繁に外泊をするので不審に思い、常時使用している車輌に10日程前から位置情報システムをトランク内に設置して行動を追っている。

しかし、位置情報システムの検索内容を見る限りでは、得意先や関連会社に訪れているだけで、外泊時には遠方の取引先との往復で一昼夜を車輌で走行しているだけである。

私は、その位置情報システムで出た内容をプリントアウトした資料を見せてもらったが、不審点が有るどころか、一日中あちらこちらを飛び廻り、非常に仕事熱心な夫である印象を受けた。

しかし、依頼者は絶対に浮気をしていると確信致しており、外出先で短時間でも女性と接触しているのではと思い、尾行して欲しいと云うのである。

我々は、早朝から依頼者宅に赴き、夫が使用する車輌がガレージに止まっている事を確認して張り込みを開始した。

暫くして、夫が車輌にて出たので尾行を開始した。

夫の行先は自分が経営する会社であった。

夫の行動は、昼食を摂りに付近の食堂に社員と共に入っただけで、その日は何処にも出掛けなかった。

ところが、依頼者である妻にその報告をしたところ「そんな筈はない」と激怒している。

位置情報システムの行動では、3件程の得意先に廻っていると云うのである。

私は、違う車輌に機械を設置したのではないかと問質したが、夫の車輌に取り付けられている事は間違いなく、現に朝家を出た時点から出社するまでの検索結果もプリントアウトしていると云うのである。

「明日は帰って来れないからと言っているので、明日は確りと仕事して下さい!」

依頼者は怒鳴って電話を切った。

翌朝、我々は再度自宅から車輌を尾行した。

夫が会社に出社後、駐車場にて一時も車輌から目をそらさないようにビデオカメラで張込み中も車輌を撮影していたところ、昼前に夫と従業員が駐車場に現われ、夫はトランクを開けて何かを従業員に手渡している。

ビデオをズームして手渡した物を見ると、位置情報機器を手渡しているではないか。

手渡された従業員は、そのまま会社のトラックに乗って走り去ったのである。

そう、この社長は自分の車輌に位置情報システムが取り付けられている事を知っており、出社後得意先周りの従業員に、この機械を渡してアリバイを作っていたのである。

社長はそのまま単身で車輌に乗車し、数分走行した場所にあるレストランに入った。

店内を伺ったところ、若い女性と同席して昼食を摂っている。

同店を出た社長と女性は、和歌山県の温泉街に向かい、旅館に宿泊した。

翌日、同旅館を出た両人は、付近を観光した後、帰路につきマンション前にて女性を降ろした。

その女性は同マンションの住人である事が判明した。

社長は、そのまま会社に戻った。

夕方、位置情報システムを手渡した従業員が遠路から帰社し、社長に機械を手渡した。

社長は、自分の車輌トランク内に、位置情報システムを戻して帰宅した。