恋文珍事件
いつものように、私のデスクの電話が、けたたましく鳴り響いた。
今回の依頼は、中年男性からの依頼である。
「少し、話が複雑になるので、会ってから詳しく説明したいのですが・・・」
「結構ですよ、どちらまでお伺いさせて頂ければよろしいでしょうか?」
依頼者の都合で、ファミリーレストランにて会う事となった。
私は、30分近くも前に約束場所に着いたが、既に依頼者は到着していた。
ガッチリとした筋肉質の大男で、身なりも確りとした中年男性である。
「私には妻子が居るのですが、ちょっとした浮気心で、一年程前に深い仲になった人物が居るのです。
最初の内は、お互い割り切った付き合いで、1ヶ月に1回程度の浮気をしていたのですが、最近になって相手が
本気となり始めて、私と妻の離婚を要求し始めたのです。」
・・・よく聞く話内容であった・・・
「割り切った付き合いでしたので、相手の名前と携帯電話番号は聞いたのですが、それ以外は一切聞いてはいな
かったのですが、相手は私の事を調べて、会社にも電話をしてくるようになったのです。」
「判りました、相手の素性を割出せば良いのですね。」
「話は、そう簡単ではないのです・・・その相手と私が付き合っていた事が妻や会社に知られると、私の身は破滅 になるのです。」
「身の破滅ですか?・・・大袈裟な・・・」
「相手は未成年者なのです・・・しかも男性で・・・」
「・・・・・・・」
「その男子学生の自宅や家族、学校を調査して、相手と直接会って、今後他言しないように念書を取って欲しい。」
私は、男子学生の身上を調査したが、家庭も裕福で、学業も上位に位置する普通の学生であった。
この学生が単身にて下校時に、声を掛ける事とした。
「学生さん・・・ちょっと話がしたいんですが良いですか?」
「何の話ですか?」
「○×さんの件でちょっと・・・」
「あなたは誰ですか?」
私が名刺を差し出すと、男子学生は、諦めたかのように肩を落として私についてきた。
付近の喫茶店に入って、二人で話しをする事となった。
「○×さんには妻子があり、あなたのお付き合いを止めたいと言っているのですが・・・」
「僕に声を掛けてきたのはあの人で、男の人を好きになる事を教えてくれたのも、総てあの人なんです。」
男子学生は、事の成り行きから詳しく私に説明し、別れろとは勝手過ぎると申立てる。
私も、この学生が悪いのではなく、依頼者が悪いのだと実感した。
しかし、このままでは、この学生の将来が心配である。
私たちは、場所を変えて食事をしながら話しをした。
数時間の話し合いの結果、学生を思い遣る私の心が通じたようで、今後一切相手とは会わないと約束してくれた。
「あまり気を落とさないように・・・好きな人が出来た時には、今度は協力してあげるからね。」
「お願いします。」
私が事務所に帰った時、依頼者から電話が入った。
「いま、相手から、今までの事は総て忘れる、と云う電話がありました。ありがとうございました。」
「あなたも、今後二度と同じ過ちを犯さないように!」
私は、半分怒鳴って電話を切った。
・・・・・・1ヶ月程度が過ぎた頃、男子学生から私宛に手紙が届いた・・・・・・
その内容は、どう考えても「愛の告白文」であった。