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珍事件手記 第8話 連携

依頼者は、調査依頼を申込んだ後、一刻も早く結果が出ないものかと、やきもきしているものである。

行動調査などでは、まだ尾行中であるにもかかわらず「今何処に居ますか?」「今何をしていますか?」などと引っ切り無しに電話を入れてくる。

依頼者に、携帯電話の番号を教えたら大変な事になってしまう。

マル被を尾行中に頻繁に携帯電話が鳴っては、尾行どころではない。

また、非常階段や人目に付かないところで、張込んでいる時に携帯電話が鳴っては、元も子もない。

だからと言って、電源を切っていては、大切な会社からの連絡も取れなくなるし、繋がらない電話に依頼者は、余計にやきもきしてしまう。

私は、今まで調査に携わり、依頼者がどれだけ早い依頼解決を望んでいるか、良く知っている。

これからお話する事件は、私が調査に携わり、今迄でもっとも迅速に解決出来た事件を紹介しよう。

私のデスクの電話が、けたたましく鳴り響いた。

依頼者は、3日前から誰かに尾行されている様子で、外出したときに目にする車があり、その車を依頼者が見た途端、何処とへもなく走り去ってしまう。

依頼者は、その足で目的地に着いて、用事を済ませ、そこを出る時に付近を見渡すと、又もやそれらしき車が停車している。

依頼者がその車輛に近付くと、直ぐに走り去ってしまうので、ナンバープレートなどは判らない。

尾行される心当たりも無い。

私は、依頼者の話内容より、尾行者は素人であろうと判断した。

その理由は、毎日同じ車輛で、一人で運転席に乗り、依頼者が近寄ると直ぐに走り去ってしまう。

以上のことより、少しでも調査に携わった経験がある人物であれば、このような張込み方はしない。

私は、詳しい状況を聞くために、次の点を厳守してもらう事を条件に、喫茶店で依頼者と待合わせる事とした。

自宅を出てから周辺をキョロキョロ見ない事。

自宅から常時使用している車輛にて喫茶店に向かう事。

尾行車輛に気付いても、ゆっくりと喫茶店に向かう事。

以上を厳守してもらい、3時間後に依頼者と喫茶店で待合わせる事とした。

私は、依頼者からの電話を切った後、直ぐに一人の調査員を依頼者宅周辺で、張込ませた。

そして、別の調査員を陸運局に向かわせ、待機するように指示した。

以上2ヶ所に調査員を配備して、私は待合せ時間の30分前に喫茶店に入った。

まず、第一報が私の携帯電話に入った。依頼者宅周辺で張込んでいる調査員からである。

「依頼者が自宅を出ましたが、尾行車輛があります。ナンバーは・・・・・・・」

その連絡を受けて、直ぐに陸運局にて待機している調査員に、指示を与えた。「車輛ナンバーは・・・・・・直ぐに車籍を出してくれ。」

暫くして、第2報が入った。

依頼者が待合せの喫茶店に到着しましたが、尾行車輛が付いています。」

喫茶店に依頼者が入ってきたので、私は合図を送り、合流した。

その時、陸運局で車籍を挙げている調査員から第3報が入った。

「車籍が出ました、所有者・使用者共に、氏名・・・・・・住所・・・・・・」

私は、会社に連絡し、車籍住所地に調査員を向かわせ、飛込みで聞込みをするように指示した。

詳しい状況を依頼者から聞き、調査契約書にサインしてもらった時、第5報が入った。

「聞込みしたところ、その車輛を運転している男性は、スナックのマスターで、自宅には妻がおり、その妻は同じスナックでママをしている。スナックの店名と住所は・・・・・・」

私は、依頼者にスナックの店名を告げ、知っているか聞いた。

「そのスナックは、私が良く行く所ですが、どうしてそのような事を聞くのですか?」

依頼者は不思議がっている。

私は、依頼の電話を受けた直ぐ後から調査を開始し、尾行者がその店のマスターである事実を短時間で調べ上げた事を依頼者に報告した。

「そう言えば、スナックのママが私に愚痴をこぼしていた事があった。マスターがヤキモチ焼きで、客と浮気をしていると勘繰っている。と」

一件落着である。

依頼契約書にサインしてもらって、3分と経たない事件解決である。

しかし、依頼者の言葉が尚も続いた。

「こんなに早く調査が出来るのなら、調査料金が高すぎる!!!」