Close
Skip to content

珍事件手記 第10話 ストーカー

ストーカー珍事件

いつものように、私のデスクの電話がけたたましく鳴り響いた。

今回の依頼は、付合っている女性がストーカーに狙われているので、そのストーカーを捕まえて欲しいという男性からの依頼である。

なんと、昨日はその女性が帰宅途中に、車に乗ったストーカーに拉致され、一晩中連れ回されたとの事で、調査は急を要する事態になっている。

どうして今まで放っていたのか依頼者に聞いたところ、女性が他人には言わないで欲しいと嘆願したため、誰にも相談していないとの事で、昨日の拉致事件をきっかけに、女性には内緒で

あわてて相談に来たという次第である。

私は、女性が拉致された車輛の特徴を依頼者に聞いたが、黒い乗用車輛である事以外、何も判らないとのことである。

依頼者の話を要約すると、次の如くであった。

女性は、ある女子短期大学の学生で、半年前に合同コンパによって、依頼者と知合い、親密な付合いを始めた。

1ヶ月位前から、女性の携帯電話に電話をしても取らない事が頻繁に始まり、どうして電話に出ないのか聞いたところ、ストーカーが電話をしてくるので、取りたくないとの返答が帰ってきた。

依頼者は、女性に被害届を警察に出すように促したが、恥ずかしいから誰にも言わないで欲しいと言うので、そのままにしていたが、昨日遂に拉致事件と発展してしまった。

以上の内容である。

我々は、女性には内緒で、身辺警護から始める事とした。

数日間、女性の帰宅途上を監視したが、ストーカーらしき人物の気配は伺われなかった。

調査開始後、5日目に、女性が帰宅途上、待伏せしていた白色のワンボックスカーの車内に、女性が乗り込んだ。

しかし、拉致されたというより、自分から率先して乗車した様子である。

ストーカーに弱みでも握られているのであろうか?

女性を乗せた車輛は、15分程度走り、ファミリーレストランの駐車場に入った。

車輛から出てくる人物を監視したところ、マル被の女性と、男性が3名の合計4名であった。

4名は、そのファミリーレストランに入店し、和気藹々と話をしているではないか。

「ストーカーではないな。」

我々の判断であった。

1時間程してから、4名は車輛に戻り、走り出した。

行先は、何とファッションホテルである。

しかも、男性3名は、大型カメラや照明器具を車輛より運び出し、ホテルの部屋に持ち込んでいるではないか。

その後、全員がホテルの一室に消えた。

受付で、「今入って行った人はテレビ局の人ですか?」と尋ねたところ、「ビデオ撮影の為に部屋を貸している。」との返答である。

女性は、AVビデオの撮影被写体であったのだ。

4時間程度、部屋にこもっていた4名は、車輛に戻り、女性の自宅付近にてマル被を降ろした。

降ろし際の会話は、「お疲れ様でした、またお願いします。」との内容であった。

次の日、依頼者に、「昨日は女性と携帯電話で連絡できましたか?」と尋ねると、「夜の11時頃まで連絡できなかったが、11時過ぎに女性から電話が入り、ストーカーに追い掛け回され、知合いの女性の家に逃げ込んでいた。」との内容であった。

世間が、ストーカー事件を騒ぎ立て、それを利用した偽称ストーカー被害の一例である。

しかし、依頼者の男性は立ち直れるのであろうか?