Close
Skip to content

珍事件手記 第11話 親馬鹿

親馬鹿珍事件

世間の親は、「うちの子に限って」とか「内弁慶で家では横柄だが、外では模範的な子供である」と思っている親が殆どであると思われる。

しかし、当の子供は動物本来の闘争意識と、冒険への好奇心、そして、思春期にもなると、異性への感心と興味が抑えきれず、節度を逸した行動をとる場合がある。

私共への依頼事項に、子供を信用しているが、悪い友達に唆されていないか心配で、子供の素行調査を依頼して来る場合がある。

この依頼事項は、夏休みに家族3人で海外旅行へ行く予定をたてたが、17歳の一人娘が「行きたくない、新婚にでも返ったつもりで、二人っきりで楽しんで来ては?」と言った。

最初は、気の利いた事を言う良い娘であると思ったが、娘は海外旅行をしたことがなく、この位の年齢であれば、喜んで旅行について来るはずである、しかし、どう言っても「行きたくない」と言い張るので、親が居ない間に悪い事でもしでかさないかと心配になって、依頼をかけて来たのである。

私は、娘が外出している間に、依頼社宅に赴いて、両親から詳しく状況を聴いた。

娘は高校生で、女子校に通っており、同性の友人は多いが、男性の友達は一人も居ない。

今まで、悪い事をして、学校や警察からの呼び出しを受けたことは一度もない。

学業は優秀で、希望する大学進学は、ほぼ問題ない位である。

只、友人と共に遊びに行って、夜遅くに帰宅する事が偶にある。

しかし、帰宅時間が遅くなりそうな時には、必ず電話連絡をする。

娘はカラオケが好きで、夜遅くなった時は、友達とカラオケボックスに良く行っている様子である。

両親は、7日間の旅行予定で、旅行当日は娘が空港まで見送りに行き、その時点から7日間の行動を総て監視して欲しい。

もし、悪い友達がいて、娘を唆すようであれば、こちらの身分を明かしても良いので、それを阻止して欲しい。

また、7日間も独りっきりになるので、深夜に於いても、賊が侵入しないように24時間体制で監視して欲しい。

以上の内容で、調査というよりも、娘が独りきりになるので、安全を確保する為に陰からボディーガードをして欲しいと言った方が良い依頼である。

また、両親の話しからすると、とても優秀な理想の娘で、羨ましいくらいである。

こんなに理想的な子供が問題を起こす事は、まず、ないであろうと私は当所考えていた。

私も、ボディーガードを重点に置き、訪問者が現れた場合、その状況を把握する為に、応接室にビデオカメラを設置させてくれるように頼んだ。

ビデオカメラは、特定の電波を発信し、受信機側で録画出来るようになっており、張込み場所でテープ交換が出来るものを使用した。

両親の承諾を得、応接室の本棚とサイドボードとの間にある隙間に設置し、丁度応接ソファーが写る位置で固定し、コンセントから電源を得た。

両親の旅行当日、前以って依頼者と打ち合わせしていたように、我々は国際空港内に所在する喫茶店にて、マル被が現れるのを待った。

午前9時23分、約束通り両親と娘が同喫茶店に入って来た。

午前10時03分、三人は同所を出、搭乗手続の入口に向かった。

両親は、私の顔をチラッと見、安心したかのように手続きカウンターへ入って行った。

娘は、一人で空港内の土産店を見ながら歩いた。

娘は、非常に整った顔をしており、スタイルも良く、一見大人びた印象を受け、22歳前後に見える。

ウインドショッピングをしている間に於いても、二人の男性が声を掛けて来る位である。

しかし、声を掛けて来た男性のあしらいは巧く、常に異性からの誘いを断っている事が伺える。

このような娘であれば、両親の心配も納得出来る。

午後12時10分、娘は自宅近くのスーパーマーケットにて、食料品を購入して帰宅した。

我々は、前以って張込み用の車輌を、自宅近くに配備していたので、同車輌内にて張込みを開始した。

応接室に設置しているビデオカメラには娘の姿は写っていない、多分、台所で昼食の準備でもしているのであろうと思われる。

午後3時43分、背広姿でアタッシュケースを所持した男性が訪問したが、すぐに玄関から出て来た。

その男性は、マル被宅の隣にも訪問した。セールスマンであろう。

午後5時25分、娘は2階のベランダに姿を現し、干していた洗濯物を室内に取り入れた。

午後7時45分、娘は応接室に設置しているビデオカメラの視界内に入った。

手には、コードレス電話の子機を持ち、誰かと会話中である。

話し内容は、相手の声が聞こえないのではっきりと断定出来ないが、女性の友達であるように思われる。

「それじゃ、明日10時に行くから。」明日の待合わせ場所と時間を決めて、娘は電話を切った。

暫く、応接室でテレビを観ながらコーヒーと駄菓子を摘まんで、ビデオカメラの視界から消えた。

午後11時25分、室内の電気がすべて消えた。

娘は就寝したと思われるが、賊の侵入を懸念している両親の依頼通り、張込みは続行した。

午前7時38分、パジャマ姿で玄関から娘が顔を出し、門前の朝刊を取り入れた。

午前9時43分、娘が自宅を徒歩にて出たので尾行を開始した。

娘は、地下鉄に乗車し、次の駅にて下車後、前日の電話にて会話を交わした同年代の女性と待合わせた。

その後、両人は映画館に入った。

上映されているのは、「ジョーズ」である。

午後12時45分、両人は映画館を出、ファミリーレストランに入った。

午後1時38分、食事を終えた二人は、カラオケボックスに入った。

それからの行動は、世間一般の高校生の友達同士がとる行動と何等変わりがなく、問題となるような行動は一切なかった。

午後5時20分、娘は友達と別れ帰宅した。

その後、応接室に設置されているビデオカメラの視界内に娘は一度、姿を現したが、訪問者もなく、その日は就寝した様子である。

午後11時45分、交代要員が張込み現場に到着し、我々はその日の業務を解かれた。

1日おいて、午後11時30分、再度我々は調査現場に赴き、調査続行班と合流し、引き継ぎを受けた。

我々が現場から離れている間、訪問者もなく、問題となるような行動は一切なかったが、午後10時前後に、バスタオルを身に付けた風呂上がりの様子で、応接室に設置されているビデオカメラの視界内に入り、コードレス電話の子機にて、男性と思われる相手と会話をしていたらしい。

会話の内容は、明日、数人の友達を自宅に招き寄せることを話していた。

その電話を切った後、娘はマスターべーションを始めてしまったらしい。

我々は、ビデオテープを巻き戻して、その状況を観察した。

この時、17歳の娘が、陰部に異物を挿入していることにより、この娘は男性との肉体経験が豊富であるかもしれない。

・・私の予想が合っている事が翌日に判明した・・

午前8時03分、パジャマ姿で玄関から娘が顔を出し、門前の朝刊を取り入れた。

午前9時46分、応接室に掃除機にて部屋の掃除をしている娘が写った。

午前11時13分、娘が自転車にて自宅を出たので、我々も張込み車輌内に用意していた自転車で、尾行を開始した。

娘は、スーパーマーケットにて、料理の材料を購入したが、その量から推測すると、10人程度の大人数分を購入している。

スーパーを出た娘は、荷物を自転車に乗せようとしているが、量が多くて思うように乗せられないでいる。

そこへ、20歳代の男性が娘に声を掛け、荷物を半分持って、共に自宅方向に歩き出した。

どうやら、通りすがりの男性が親切心で荷物を持ってあげているようである。

娘は、自宅玄関先にて、男性に丁重に頭を下げて別れ、自宅に入った。

荷物を家に入れて、再度自転車にて外出した。

今度はコンビニエンスストアーに入り、パーティー用のクラッカーを大量に購入し、帰宅した。

午後12時28分、再三に渡り自転車にて自宅を出た娘は、やや自宅より距離がある酒屋に入った。

酒屋であれば、自宅の近くにもあるが、いつも利用している酒屋で酒類を購入すると、両親に判ってしまうので、ここまで遠出したと思われる。

娘は、シャンパンとワインをそれぞれ数本、自転車の前籠に入れ、箱に入った缶ビールを2ケース自転車の荷台に括り付けて、重たさでフラフラしながら自宅に戻った。

娘が応接室にパーティーの用意をしている姿がビデオカメラの映像に写った。

午後3時28分、二人の同年代の女性が訪問し、応接室に通された。

午後3時47分、また一人同年代の女性が訪問した。

応接室に設置しているビデオカメラからの内容からすると、どうやら娘と、この3名は学校の同級生であるらしい。

午後4時03分、22歳前後の男性6名が訪問し、応接室に通された。

応接室では、女性4名、男性6名の合計10名がパーティーをしている。

娘達は未成年であるが、酒類を飲酒している。

娘が購入して来たビールの量では足らず、2名の男性が、酒屋にビールを買出しに行った。

全員が、かなり酒に酔っている様子である。

2時間程度、酒を飲みながらワイワイと騒いだ後、一人の男性が娘とキスをし始めた。

それに釣られて、それぞれが猥褻行為に及び出してしまった。

乱交パーティーである。

我々は、両親から依頼されていたので、その行為を止めさせようと玄関のチャイムを押し続けたが、誰もドアを開けようとはしない。

我々は、庭に回り、応接室がある部屋のガラスを叩いて、「やめなさい」と数度叫んだ。

張込み車輌に戻り、応接室の様子を見ると全員が身仕度を整え出した。

暫くして、男性6名が恐る恐る玄関から出てき、大慌てで走り去った。

娘は、3名の友人と青い顔をして相談している。

「誰?何でわかるの?」「気味悪い」と口々に話し合っている。

娘達の話しによると、6名の男性はカラオケで知合った大学生で、今までに数度、このような乱交パーティーをしたことがあるらしい。

暫くして、3名の友達もそそくさと出て行った。

両親が帰宅し、その状況を説明したが、総ての状況を伝えてしまうと、親が娘を叱責し、娘が恥ずかしさの為に自殺を考えるかもしれない。

また、そこまで考えなくとも、今後の親子生活が今まで通りに行なえる筈もなく、娘の性格は大きく変化してくるであろう。

我々は、只単に、男女10名でパーティーをしていたが、猥褻的な会話が飛び交い始めたので、それを制止した。とだけ伝えた。

しかし、どの親も言う言葉は一緒である。

「うちの娘に限って、その様な事はない、もし本当であれば、誰かに唆されて無理矢理会話に参加させられたに違いない。」

我々は、応接室での状況を録画したビデオテープを、依頼者には手渡さなかった。

それどころか、一切見せてもいない。

このようなビデオテープを親に見せた場合、親が受けるショックは計り知れないものであろう。

私も、世間の若者の多くが、このような行為に及んでいるとは思いたくない。