激怒珍事件
いつものように、電話のベルが、けたたましく鳴り響いた。
若い女性からの調査依頼である。
「結婚を前提にお付合いをしている男性がいるのですが、最近になって相手が妙に冷たくなり、別の女性と浮気している様子なので、調べてください。」
この言葉は、今まで何十回、何百回と聞かされている提言である。
私は、依頼者の女性に詳細を伺うために、喫茶店で待ち合わせをした。
その女性は、25歳前後の可愛らしい女性であった。
この時は「手馴れた仕事で、すぐに結果が出る」と高を括っていた。
翌日、被調査者の勤務先付近にて張込みを開始し、相手の男性が退社するのを待った。
暫くすると、男性は単身にて会社を出、駅前の喫茶店に入店した。
店内の様子を伺うと、依頼者の女性と相席している。
私は、依頼者に対し「会うのであれば、前以て一言告げてくれたら良いのに」と思った。
両人は、喫茶店を出、付近の映画館に入った。
この映画は、上映時間が3時間も掛かる映画である。
「まだ調査初日だし、あと2日の調査期限がある、今日は一先ず、切上げるとするか」
翌日、再度被調査者の勤務先付近にて張込みを開始した。
前日と同じく、被調査者が単身にて会社を出た。
その後、又もや前日と同じ喫茶店に入店し、依頼者と相席しているではないか。
暫くして、両人は喫茶店を出、駅から電車に乗車した。
途中、依頼者は自宅最寄の駅にて下車した。
被調査者は、その後、単身にて帰宅した。
付近にて張込みを行なっていたが、被調査者の自宅電気が消灯したので、張込みを解除した。
翌日、今日は調査最終日である。
私は、被調査者の退社を待った。
又しても、依頼者と共に喫茶店にて相席している。
両人は、同店を出た後、ファッションホテルに入店してしまった。
翌日、私は依頼者に電話で苦情を申し立てた。
「3日間調査致しましたが、貴方と会っているだけで、他の女性とは接触していませんよ。
男性と会うなら会うと一言連絡して頂かないと困ります。」
すると、どうであろう、依頼者は激怒して私に食って掛かって来た。
「何を言っているんですか、私はこの3日間相手とは会っていません。
いい加減な報告しないで下さい。私が相手と会っていた証拠はあるのですか。」
残念ながら、依頼者と会っているだけなので、写真撮影は一切していなかった。
「いいでしょう、もう一日だけ調査します。」
私も激怒して答えた。
翌日、再三に渡り、男性の退社後を尾行した。
やはり、今までと同じ喫茶店にて依頼者と相席している。
同店を退店した両人は、ショットバーに入店した。
その後、依頼者と被調査者は、それぞれ帰宅した。
今回は写真撮影だけではなく、ビデオも確実に録画している。
今度は、私が依頼者に激怒して食って掛かる番である。
翌日、4日間の報告書に写真を貼付し、録画したビデオテープを所持して、依頼者と待合わせた。
「このとおり、貴方と相手の男性が会っていた証拠です。」
思っていたとおり、依頼者は顔を真っ赤にして黙り込んでいる。
・・・やった!俺の勝ちだ!・・・
しかし、依頼者から出た言葉は謝罪ではなく、落胆の一言であった。
「この女・・・・私の妹です・・・・」