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珍事件手記 第19話 信頼

信頼珍事件

今日は、探偵養成所の卒業生が私に相談があるとのことで、久しぶりに会いに来る日である。

その卒業生は、25歳の好青年で、養成講座も主席で卒業した将来有望な探偵である。

卒業時に、私は独立開業をその青年に奨めたが「まだまだ社会勉強がしたい」との意向で、探偵社への就職を希望していた。

ちょうど、ある探偵事務所から調査員を募集しているので、卒業生を紹介して欲しいと云う要望を受けていたので、そこに青年を紹介した。

その探偵事務所は、社長と従業員2名で浮気調査を専門的に行なっている所であった。

青年は一目で社長に気に入られ、正社員として採用された。

半年が経った今、その青年が相談に来ると云うのである。

「お久しぶりです。」

その青年は、前にも増して精悍で正義感が強い顔付きになっている。

聞いて下さい。」

私は、青年の話に耳を傾けた。

探偵事務所に入社して、最初は社長の私用ばかりを言付けられ、専属の運転手かお手伝いさんに成った気分であったが、誰でもが経験する試練の道であると自問自答して耐えてきた。

しかし、先輩の話を聞いていると、調査業に対する不信感が湧いてきた。

「調査開始後、すぐに浮気相手が発覚しても絶対に言ってはいけない。」

と言うのである。

その理由を聞くと、出来るだけ結果を出すのを先々に延ばして、追加料金を請求できるようにするのが良い調査員であると言うのだ。

次の日、青年は社長にその事を話し、真意を求めたところ「そのような事は絶対にない、私を信頼してくれ。」との内容であったので信用した。

暫くしてから青年は、ある浮気調査の現場に出動した。

被調査者は男性で、若い女性を連れてファッションホテルに入った。

青年は、ホテル出口付近にて、被調査者が出て来るのを張込んでいたところ、とんでもない光景を目の当りにしてしまった。

自分が勤務している探偵社の社長が、そのホテルから女性と出て来たのである。

しかも、相手の女性は以前に浮気調査を依頼した女性である。

翌日、青年は再度社長に真意を求めた。

社長の答えは「夫に浮気されて淋しがっていたから慰めて上げただけだ、それに、あの依頼者は金を持っているからな・・・」

青年の話が続いている最中、私は意気奮闘し、その足で探偵事務所の社長を訪ねた。

「これは、どう云う事ですか、探偵が浮気をするとは警察が泥棒をするのと変わりないのではないのですか。」

社長は、それに対して答えた。

「自分が扱っている商品を熟知しないで、商売が出来るか!!!」