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珍事件手記 第3話 盗聴調査

盗聴調査珍事件

いつものように私のデスクの電話が、けたたましく鳴り響いた。

と言いたいのではあるが、今回は違った。

私の友人から、一通の手紙が届いたのである。

私は、幼い頃から生き物が大好きで、暇さえあれば近くの堤防に出かけ、溜池で小魚やザリガニなどを採取したり、草むらでバッタやカマキリを取り、自宅に持ち帰り母親によく叱られていた。

ある日、カマキリの卵を採取し、母親に見つからないようにと勉強机の引き出しの奥に隠したことがあった。

冬が過ぎて春になった頃、学校から帰宅すると家の前が騒がしく、救急車が止まっていた。

何事かと駆け寄ると、母親が担架に乗せられ、自宅から連れ出された。

私は自宅に戻り、なぜ母親が救急車で運び出されたのかが理解できた。

私の部屋には掃除機が置かれてあり、机の引出しが半開きになっている。

母親が掃除していたのであろう、問題はその引出しである。

何百というカマキリの子供が団子状態になって、うじゃうじゃと這いずり出しているではないか。

母は、その光景をまのあたりにして悲鳴を上げ、気絶してしまったようである。

今回私が受取った手紙の差出人とは、この頃からの親友で、彼の母親が風邪で寝込んでいる時に、きれいな蛇をビニール袋に入れて、病気のお見舞いに行った事がある。

彼の母親も、私の母親同様、救急車で連れて行かれてしまった。

私と親友とは、今でも頻繁に連絡を取り合っているが、今回の手紙はただ事ではない。

・・・・・・彼からの手紙を紹介しよう・・・・・・

「君のことであるから、元気で調査現場を走り回っている事と思う。

私の方も総て順調であるが、ただ一つ最近気になることが出てきた。

どうやら、我家の会話が第三者に盗聴されているような気配がある。

時間を執らせて悪いのだが、一度調べてはくれないものであろうか。

君の采配を心から願う。」

ただ事ではない、親友の身に危険が迫っているのではと心配になり、私はその日のうちに盗聴発見器を携えて親友が待つ静岡県に向かった。

盗聴相手は、親友の自宅や勤務先に盗聴器を仕掛けているかも知れないので、親友には行くことを伝えていない。

親友も、盗聴されていると思い、電話ではなく手紙で助けを求めてきたのであろう。

私は、親友の玄関先に着き、呼び鈴を鳴らした。

玄関のドアが開き、中から親友の奥さんが出てきた。

驚く奥さんを制止し、「テレビの修理に来ました。」とやや大きめの声で伝えた。

奥さんも事情を把握し、「お願いします」と答えただけで黙っていてくれた。

奥から親友が顔を出し、頭をぺコンと下げて手を合わせウインクしている。

私は念入りに盗聴器の発見に努めたが、何処にも存在しない。

「大丈夫、盗聴器はつけられていないよ。」

友人と奥さんは、ホッとした表情になったが、まだ不安気である。

私は、盗聴されていると思う状況を親友に詳しく聞き出した。

一ヶ月位前に、親友の上司から「昨日は大変だったな、奥さんとは仲直りできたか?」と言われた事に始まった。

その前日は、親友と奥さんが、たわいも無いことで口喧嘩をしていたのである。

また、奥さんも近所の人から「昨日は子供に理科宿題を教えていたでしょ、でもあなたが教えていたこと間違っているわよ。」と指摘されたこともある。

そのようなことが頻繁にあり、「どうしてそのようなことが判るのか?」と問い詰めたことがあった。

すると相手は、「電話が鳴ったので取ったらあなたの声が聞こえていた。」と言われた。

もしかすると、電話が壊れているのかと思い、新しい電話機に変えた。

すると、暫くはそのようなおかしな事は起こらなかったのだが、やはり、同じような現象が出てきた。

NTTにも調べてもらったが、故障などはしていないという。

私は、電話機か電話線上に何らかの原因があると思い、細かな点まで再度調べたが、問題になるような点は見つからなかった。

親友と奥さんは、「あまり気にしないようにする」と私に伝えたが、やはり気に病んでいる様子である。

「今日はもう遅いので、こちらで泊まってください。」

「久しぶりに一杯やろうか。」

友人と奥さんにすすめられ、私達は深夜まで酒を酌み交わした。

次の日、客間で目を覚ました時、一匹の猫が私の布団に潜り込んでいることに気付いた。

根っからの動物好きである私は、その猫と暫く戯れてやった。

猫は、私との遊びに飽きたのか、客間のドアにポンと飛びつくと実に器用にノブを回して出て行こうとしている。

猫は、客間の出入口に立ち止まり、私を見て一声鳴いた。如何にも今度は俺が遊んでやるから着いて来いと言わんばかりに。

私は猫の後に着いて行ってやった。

猫は居間に入った。

するとどうであろう、猫は電話台に飛び移り、受話器を外したではないか。

それどころか、再ダイヤルボタンまで押している。

暫く見ていると、猫は再度受話器を置いて、私に向かって一声鳴いた。「どうだ」と言わんばかりに。

・・・・・・盗聴の犯人が判明した・・・・・・